rory / 仏教ロック!のプラモデル日記

プラモデル作成の過程を載せるつもりですが、気ままに書きます

徒然MMT[1] - Yahoo!知恵袋のrickyさんのコメントをノート化してみる(試)

承前

mmtについて質問です。 - mmtではインフレになるまで国債... - Yahoo!知恵袋

またrickyさんの素晴らしい!と思われるMMT解説がYahoo!知恵袋に投稿されている。 しかし、大枠は理解できたつもりでいるのだが、細かいところが理解できない。rickyさんは敢えて長文で記載しているものと思われるが、ここは自分がどこが理解できてどこが理解できていないのかを確認するためにノート化(=箇条書きにして再整理)してみたい。脚注は私が付記した部分になる。

ノート

国債に関するMMTの主張の基本

  • 誤解されたMMT
    • インフレになるまで国債を発行する
  • MMTの主張
    • 国債とインフレには関係がない
      • 戦後のアメリカや日本のシステムを前提とすれば、国債にインフレを回避するような効果は全くない
      • 経済的な実態を言えば、政府の支出は常に(財政赤字黒字に関わりなく)ベースマネーの新規発行によって行われているのであり、国債は、そうして政府が発行したことによって過剰になった準備預金をインターバンク市場*1から排除するという機能しか持っていない
        • 従来的主張:中央銀行が政府に直接融資を行うと、インフレが激しくなりすぎるから、中央銀行による直接融資は禁止して、国債市中銀行に買い取らせることで、インフレを回避する、という言うことがまことしやかに言われていた*2
          • MMTの発足当時からの中心人物の一人であるS. フルワイラーという人が以前は繰り返しツイッターで書いていたんだけれど(それだけアメリカなどでも誤解が多かった)、最近は何べんおんなじことを言っても全然理解されないので、もう嫌になっちゃった模様*3

MMTにおける(真正)インフレの回避策

  • 真正インフレの発生過程
    • 政府が支出しすぎて、総需要が国内の供給力を上回ってしまえば、ケインズの言う真正インフレになる。この場合にはインフレは歯止めが利かなくなる
  • MMTにおけるインフレ回避策とは?

    • インフラ整備|環境保全|人的資本強化(そのための教育制度の確保)
      • 政府の裁量的支出(公共投資など、政府の意思決定によって操作できる支出)を安定させる
    • 政府部門や家計部門の支出を安定させることで民間部門の投資全体を安定させることを通じて、景気変動を均して企業部門が抱えている不確実性を減らすこと
      • 自動安定化装置(とりわけJGP)によって、家計の所得を安定させることで家計部門の支出も安定させる。
    • 政府部門と家計部門の支出が安定することで企業部門も比較的不確実性が少なくなり、投資が安定する。こうしたことを通じて景気変動を減らし、インフレをなくしてゆくことを目指す

MMTにおける国債に対しての提言

  • 国債に対するMMTの主張:国債の廃止
    • 国債にはインターバンク市場の金利下支えの機能しかない。それなら最初からそれにふさわしいやり方を採用するべき
      • その一つが、現在実際に各国で採用されている(超過)準備に対する付利制度*4
      • より望ましいのが、最初から中央銀行インターバンク市場金利を上下することをやめること。つまり「恒常的ゼロ金利政策」といって、金利政策自体をやめること*5
        • ――何故か
          • MMTでは金利政策の有効性には大きな疑いを持っている――これは効かない、というより、どのような効果があるのかわからない、という意味

MMTにおける金利政策に対する見方

  • 教科書的主張:製造業が金利低下によって設備投資を増やし、金利上昇によって設備投資を減らす
    • 実際にほぼ全く期待できないことが実証研究で(もう1970年代ぐらいには)はっきりしていた*6
  • 現代の製造業では原価計算に基づく目標マークアップを実現できるように価格設定がなされる
    • この場合、金利の上昇は企業にとって費用の増加を意味する。独占度などにも拠るが、これはかえって物価を引き上げる効果を持つ
      • ただし投機的性格の強い建築デベロッパー部門などでは、確かに工事着工件数を増やすなどの効果があり得る
  • 現在のように年金など金利所得層が増えた状態では、金利引き上げの効果はむしろ年金受給層などの支出を増やす傾向にある
  • そもそもMMTの枠組みからすれば、政府による金利支払いは民間の純所得を増やすはずであり、これは民間支出の増加につながるはず
    • ところがその一方で金利引き上げによって金融資産価格が上昇すれば、それは資産階級の支出を大いに刺激する
      • さらにこうした動きがコモディティーにまで波及すれば、今度はこれが原油や金属などの素材関連のコスト引き上げにつながり、インフレを刺激する面も持つ
  • こうしたことを勘案したとき、MMTにとって金利政策というものが景気にどのような効果をもたらすのか不可知となる
    • 何より、こうした金利操作それ自体が金融市場の不確実性を高め、投機活動の機会を提供し活発化させ、金融不安定化をもたらす
    • 中央銀行はこうした金融投機活動を抑制し、銀行による不適切な融資活動を監視し、金融市場を安定させることに注力するべきで、金融政策など放棄するべき

MMTによるインフレ抑制のための一提案

  • 戦時公債型国債*7
    • 現在の国債とは異なり、民間銀行の預金により売買され、特別な事情がない限り、一定期間、売却や譲渡ができず、担保にも使えないという国債
    • これも政府の財源になるわけではなく、単に民間の預金通貨の流動性を引き下げるだけの機能しかない

そもそもMMTとは?

  • MMTというのは、幅広い射程を持った「ものの見方」に関する議論であって、単に目先の経済政策をどうする、という話とはまたちょっと違う
  • 例えば、"Taxes Drive Money"(税が貨幣を駆動する)について
    • 債務の額面価値はそれが償還されるときにどのようなことを約束しているかによって定義されている
      • 民間の多くの債務は銀行預金通貨により償還され、そして銀行預金通貨はベースマネーにより償還され、そのベースマネーは租税によって償還される。だから租税こそ貨幣(債権債務の額面価値を表示する数字)を定義しているんだ、ということ*8
    • 租税制度によってさまざまな経済主体が発行する債務の間に一種の階層秩序が構成され、それが安定していることによって経済的にも安定した取引が可能になる
      • このヒエラルキー構造を安定させることこそ中央銀行の重要な役割なのだが、それを(自由化政策などにより)放棄した結果登場したのが、バブルの発生と崩壊とが頻繁に繰り返される「マネー・マネージャー資本制経済」なのだ、というのがMMTの主張の一部
      • 貨幣価値を市場での取引によって安定させようとしても、もともと貨幣というのは様々な経済主体が負債を発行することでいくらでも生み出されてしまうものなので、これを野放図に自由化したところで、物価や通貨の安定には結び付かない。どのようにして生産(取引ではなく)と貨幣とを結び付けるか、これがMMTの大きな主張の一つであるJGP(就業保障プログラム)に繋がっていく

日本におけるMMTに対する誤解(ここは別にどうでもいい)

  • MMT国債破綻しない説、となってしまった
    • 日本では残念なことに、19年の春にアメリカで最若年の国会議員がMMTに言及し*9アメリカの場合政府赤字によって財政破綻することはない、ということが強調され、それがきっかけとなって広まったという経緯があった
  • そこからさきは妄想ばかりが膨らんで日本オリジナルのMMTが色々あるが、ややめちゃくちゃ
    • 「日本はMMT政策を採用している」といったわけわからない話
      • MMTが「日本ではいくら中央銀行国債を民間から買い取り、その代わりに利付きの準備預金を提供しても、まったくインフレにはつながっていない。これは主流派経済学の誤りを指摘してきたMMTの主張の正しさを証明するものだ」といった発言がこのように捉えられた。…。
    • 租税貨幣論:租税の役割はインフレを抑制するため
      • これは確かにMMT派のケルトン女史などが強調していることではある
        • ところがそれと同時に、ケルトンは実際にインフレが発生しそうなとき、増税によってこれを回避しようというのは適切でも効果的でもない、とも言っている(後述を参照のこと)

国債制度を廃止した場合のベースマネー発行方法

  • MMT派がよく言っているのは、政府預金口座に当座借越ファシリティーを設定すること
    • 当座借越*10MMTが言っているのはあくまでもオーバードラフト、つまり口座残高がマイナスになる、ということ
      • 日本商工会議所の簿記検定ではこちらの意味で使われている一方、日本で銀行と付き合っているとコミットメントラインのようなものを指すことが多いので注意。
        • 日本だと、個人の総合口座で定期預金を担保としてマイナス残高が許容されるタイプの預金がイメージしやすいか(ただし担保や借越枠はない模様)。
    • 政府は中央銀行に政府預金口座を持っており、そこで資金管理している。
      • 現在は、政府は支出に先立って必ず支出額以上の預金残高を確保していなければならない。だからもし資金が足りない場合には財務省が短期証券を発行して、政府預金口座に資金を入れてから支出することになる。そしてもし年間の収入総額が支出総額を上回るようだったら、短期証券ではなく国債に切り替えなければならない
      • しかし政府預金口座がマイナスになってよいのであれば、支出に先立ち支出額以上の残高を確保しておく必要などないし、マイナスを繰り越して構わないとすれば(そして借越枠を設けないので良ければ)、国債も必要ない
      • まあ借越枠は単年度の予算では必要になるかもしれないが、長期的に見れば、今のアメリカの債務上限法*11と一緒で、上へ上へと延びてゆくことになるだろう。政府に収入があったときには、この借越額のマイナス額が収入によって減少することになる

MMTにおけるベースマネーおよび租税に対する考え方

MMTにおけるベースマネーに対する考え

  • MMTでは、先にベースマネーの発行額が決まるのではなく、政府の支出額が決まると、それに従いベースマネーが発行される、としている
    • 政府は基本的には民間の必要性によって財政支出額を決めるべき
      • 民間の必要性:基本的な公共施設、インフラ整備や教育・医療・環境保全、などといったもの
        • ただしこうしたものを整備しようにも、一気にやろうとすれば国内で利用可能な経済的資源のキャパオーバーに繋がってしまう。キャパオーバーになれば、それ以上はいくらベースマネーを発行して実行しようとしたところで民間の資源需要との競合となり、インフレになるばかり
          • これは「真正インフレ」と呼ばれる状況で、MMTにとっては絶対避けるべき状態。
        • この意味で、MMTでは「インフレが政府支出の上限」とよく言う
          • よくある誤解:MMTは何もインフレになるまで支出をするべきだ、とか、政府は事前にどれだけ支出すればどれほどインフレになるかを把握できる
            • ――そんなことは不可能。なぜなら、総需要を構成する支出は政府だけでなく、民間投資が大きな部分を占めているけれど、これは不安定で政府があらかじめ知ることなどできない
            • それより政府が民間に合わせてちょうどインフレにならない(あるいはインフレ率2%でも一緒ですが)水準に総需要をコントロールしようとしても、そこには情報や決定、実行、支出についてのタイムラグが存在しており常にタイミングを外すことにならざるを得ず、それどころか、こうした政府支出に対する民間の予想を不安定にさせ、それ自体が民間投資をかく乱し経済を不安定化させる原因になってしまう
        • だからあくまでも、インフラや教育、医療、環境保全など、民間の実物的必要性に応じて長期的・計画的に「目標を定めた」支出 measured and targeted spending をするべきであって、ベースマネーをいくら出すべきか、とかインフレをどうするか、といったものを基準にすべきではない
          • ただし、現在のアメリカやカナダ、オーストラリアあたりの生産力を前提とすると、政府支出の規模は現状よりかなり大きくなければ民間投資を安定させる効果は薄い、とも言っている。民間投資の景気変動を均して考えて、ある程度民間投資に近い額程度の政府支出は必要になる、としている

もう一つの考え:JGP(就業保障プログラム)

  • MMTの考えでは、貨幣経済と実態経済とは交換によって結びつく面より生産によって結びつく面の影響の方が大きい
    • 加えて、マネーの大部分を占める信用貨幣(銀行預金通貨ばかりでなく、ノンバンクの発行する様々な支払い手段、企業の振り出す約束手形なども信用貨幣に含めます)の量を政府がコントロールしてインフレを調整するなど、まったくばかげた発想、としている
  • むしろ価格は、所定の貨幣賃率と海外からの輸入資源価格や現状の生産設備を前提として所定のマークアップ目標の下、原価計算を通じて決まる
    • 生産量は予想貨幣所得を前提としてマークアップが実現できる価格で販売できると予想される数量で決まる
    • 企業が必要とする運転資金は企業が負債を発行することで(主として銀行の信用創造を通じて)決まる
    • 銀行は信用創造によって生み出した銀行預金通貨の決済のためベースマネー(準備預金)を必要とするけれど、これは中央銀行によってアコモデートされる
  • ここで決定的な役割を果たすのは貨幣賃率
    • 個別企業水準で言えば、様々な生産要素がかかわっているが、マクロ経済全体で考えると、貨幣賃率が生産コストの最も重要な部分を占めている
    • だからこの賃率を安定させることが生産コストを安定させる(製品価格の決定)うえでも、生産量を決定する(企業は所与の貨幣所得を前提に売り上げ見込みを立てる)うえでも最も重要な役割を果たす
  • どうしたら貨幣賃率を安定させることができるのか
    • ――ここでMMTは、金融市場で中央銀行がやっていることと同じことを政府が労働市場でやるべきだ、という
      • つまり目標賃率水準を決め、その賃率より賃金が下がったら(つまり市場で労働力が過剰になり、民間で雇用されない人が出てきたり、時短で十分な所得を得られない人が出てきたときには)政府が目標賃率水準・労働条件水準で職を必要とする労務者をいくらでも雇用し、逆に目標賃率より民間の賃率が上昇したら(つまり市場で労働力不足が発生したら)、そうやって労働力が過剰な時期に政府が雇用していた労務者たちが自由に民間へ移れるようにする
      • そうすることで原価を構成する賃率を安定させると同時に、家計の支出を安定させることで、企業の不確実性を取り除く。そしてそうすることで企業の投資活動も安定させる
  • 政府は、上記の通り、公共投資など自分の意思決定で金額を決定できる「裁量的支出」についてはある程度大きな規模で安定させ、景気循環などによって変動する「非裁量的支出」としてJGPを採用することで、景気循環と反対に財政を増減させる
    • この「非裁量的支出」(JGP)では、政府の支出額は、JGP雇用に参加しようとする労務者の数によって決まってしまい、政府が決めることはできない。いわば民間(家計)の資金(職)需要に政府が「アコモデート」する。こうして民間が必要とする資金を政府が提供する
      • 注意:政府はこうした支出を通じて、単に民間に資金を提供しているのではなく、民間の所得(利潤)を形成し、民間部門の「純資産」を増加させている…(別の機会に)

MMTにおける租税に対する考え方

  • 租税は、単に民間の資金を奪う、ということより、民間所得および民間純資産を減らす効果がある

    • これは国内資源が一定の時、民間の支出を減らし、それだけ政府の財政活動の余地を広げることに貢献する。上記の通り、総需要が過剰になり国内供給力を超えてしまえば真正インフレが発生する

    • これが政府支出の上限を成すわけだから、税金が大きければ、それだけ政府は財政支出を増やすことができる、とは言える

  • が、実際にインフレが発生したとき、増税によってインフレを回避できるか、あるいはできるとしてそうすることが得策なのか、というと、MMT派は慎重

    • というのは、例えば景気が過熱してインフレになったとき、一番苦しむのは誰かというと、景気過熱にもかかわらず最後まで職に就くことができない層、具体的にはきちんとした教育を受ける機会を得られなかったマイノリティのシングルマザー。増税などによって景気を冷ます政策が一番ダメージを与えあるのはこうした層だ、というのがMMT派の見立て

    • 増税は、確かに景気を冷ます効果があるかもしれないが、他方で企業がマークアップを設定する際目標とするのはあくまでも税引後利潤であるから、法人税が引き上げられればかえって価格がさらに上昇する可能性もある

    • 所得税が引き上げられれば、労組の賃上げ圧力がさらに強くなり、これもインフレにさらに拍車をかけかねない

    • 金利の上昇も同じような効果を持つ。しかし上記のようなマイノリティー層はこうした回避策をとることができず、悪影響しか受けない

    • そもそも増税によって民間支出を減らそう、という試みを成功させるには、所得に対する消費支出の比率が高い中低所得層への課税を、上位層に比べて相対的に大きくすることが必要になるこれでは政府が政策を遂行する上で最も協力を必要とする中所得層の協力をなかなか得られなくなってしまう。これでは逆効果になってしまう可能性もある

  • MMT派では、どちらかというと増税という手段は、所得・資産格差を解消するため、あるいは社会的に望ましくない消費活動や投資・投機活動を抑制するために用いられるべきで、インフレ回避といったマクロ経済政策上、あまり好ましい手段ではない、と考える傾向がある

    • 税率や税額の決定も、こうした社会政策上の観点から決められるべきで、政府の財源の必要性によって決めるべきではない、とされる
    • これがMMT派の言う「機能的財政」という考え方
      • これはもともとはA. ラーナーという昔の経済学者の用いた言葉*12で、財政の良しあしは、黒字か赤字か、債務がどれだけあるか、ではなく、その支出が経済全体に対して与える影響で判断されるべきだ、ということ
      • もっともラーナーと異なりMMTの場合は、景気に対する効果というよりは、もっと社会的で具体的な話を強調する傾向がある
        • 実際、レイによるなら、最初にフォーステーターが機能的財政の考え方をMMTに持ち込もうとしたときには結構抵抗もあった模様。レイ自身、ラーナーとミンスキーを比較したW.P.では、ラーナ―のことをあまりいい書き方をしていない*13
          • ラーナーの機能的財政の考え方は、ファインチューニングによる景気安定化政策の考え方を経て、結局マネタリズムと同じ結論に行き着いてしまった。それじゃダメなんだ、という意見
        • ラーナ―をMMTに持ち込んだフォーステーター自身も、ラーナ―とレーヴェ(レーヴェというのは、アドルノやホルクハイマーといった哲学者を推すフランクフルト学派系の経済学者として知られています)を比較したW.P.では、なんだかレーヴェの方を評価しているみたいな書き方になっている*14

    まとめ

  • MMTは、機能的財政の考え方に従い、財政支出の規模や税率・税額についてはその社会経済的な必要に応じて行うべきであって、政府の財政が黒字かどうか、債務がいくらあるかにはこだわる必要はない、という立場

    • ただしそれは、政府がファインチューニングや呼び水政策といったやり方で景気を維持しよう、ということではなく、社会的に必要だけれど営利企業によっては提供されない社会的サービスや施設を提供する、ということ
    • 景気についてはJGPで働く意思と能力のある人はすべて雇用し(「真の完全雇用」といっていますが、失業者をゼロにする、という意味では必ずしもない。あくまでも、働きたいと思ったすべての人に適切な労働条件で雇用される機会を提供する、という意味)、政府支出と家計支出とを安定させることで企業の投資の不安定化を減らすことで、景気を安定化させる、ということとなる

ついでに、裁量的支出についての補足と、MMTの"暗さ"について

MMTやPKによれば、政府の裁量的な支出は後手に回りやすいし... - Yahoo!知恵袋

裁量的支出の補足

  • MMTは政府の裁量的な支出に否定的なのではない
    • そうではなくて「裁量的支出政策」――つまり、裁量的支出を、文字通り裁量的に上下させることに、否定的
    • 「裁量的支出」と「非裁量的支出」の区別というのは、政府が支出額を任意に決定できるかどうかの違い
      • 政府が任意に額を決定できるなら、「裁量的支出」MMTでは、裁量的支出自体は否定するどころか、アメリカについては大幅に増やすべきだ、としている
      • 彼らが否定しているのは、その額を、景気変動に対応していたずらに増やしたり減らしたりする政策。裁量的支出政策に反対する、というのは裁量的支出そのものをなくせ、と言っているのではない。しつこく言っとかないと勘違いする人が絶えない…

政府による裁量的支出政策の外観

  • 政府の裁量的な支出政策(および連銀による「最後の貸し手」政策)と悪性のインフレの間の結びつきが顕著になったのは50年代後半から60年代
  • 70年代にはいると今度はスダグフレーションになり、インフレと失業率の(上辺の)関係が断たれるようになる(「垂直のフィリップスカーブ」)。政府の支出(とりわけ軍事支出)が増えても、雇用も実質賃金も伸びない(それどころか悪化する)という現象はこのころには明確になる
  • 60年代にはすでに景気回復から取り残された黒人層の問題など発生、それに対して「トリクルダウン」という言葉が使われるようになる(まず白人の中産階層が豊かになれば、その支出を通じて黒人低所得層も豊かになるので、まずは白人中産階層の所得を引き上げることが必要、という考え方)
  • 70年代になると、所得が改善した層においてすら、貧窮感がかえって強まる、という「相対的剝奪」現象がみられるようになる。もうすでにこのころには名目的なGNPの伸び(「実質」GNPですら、生活の質、という面から言えば、名目的なものに過ぎない)がかならずしも一般国民の経済生活を豊かにするとは言えないことがはっきりしてくる
  • それで70年代末から80年代初頭にかけて、徹底的な「改革」が行われるようになる。家父長的な管理体制で、皆を幸せにしようとするからみんなが不幸になるんだ、努力をするものが応分の利益を手にできるように世の中を改革するべきだ、という、いわゆる「中産階層の反乱」が起こった

MMTの”暗さ”について

  • そういう構造に陥った原因というのは、そりゃ、資本制経済だから
    • というかもっと広く言えば、人間の経済だから
    • ミンスキーに言わせれば、不況の原因は好況。経済不安定化の原因は経済安定
    • 極端な経済危機があれば、人間はそれを防ぎ、繰り返さないようにするために制度改革を行う。行動は慎重になり、意思決定は保守的になる。しかしそれで安定し、危機の記憶が薄れれば、危機を予防するための様々な規制や制約を逃れるためのイノベーションが行われ、規制や監督それ自体を取り除こうとする動きが強くなる。予防し回避するための保護策によってモラルハザードが繰り返されれば、予防策・保護策そのものが批判の対象になる。過剰にリスクがとられ、強気の意思決定がとられるようになる。
  • だからレイやティモワーニュは言う
    • ――MMTに基づいた政策によって経済がうまくいくとしても、そんなものがうまく続くのはせいぜい10年そこいらで、その後何十年かかけて長い崩壊過程を経験することだろう
    • ――それでもいいのだ。MMTの貢献は、この長い崩壊過程をよりましなものにすることだ
    • MMC(マネー・マネージャー資本制経済、つまりサブプライムローン危機によって「終わりの始まり」を迎えた「自由主義」的傾向の強い資本制体制)の崩壊過程は、以前の「金融資本制」の崩壊過程より、その規模ははるかに大きかったのにかかわらず、社会的悪影響をはるかに小さいものにとどめることに成功している
    • MMTに基づく経済体制の崩壊過程も、「管理資本制」の崩壊過程よりずっといいものにできるはずだ
    • ごくわずかな期間のユーフォーリアのためにではなく、好不況を超えて、長期的により安定し、個人が自分と地域社会の発展を追求できる社会的を目指すべきだ
  • 資本制経済という枠組みの中で、経済を安定させるということは、基本的には不可能だ(ただし多少マシになら出来る)、というのがMMTの認識

*1:1. 短期金融市場とは|「短期金融市場と円の国際化」関連資料|経団連|98/06/16

*2:日本銀行が国債の引受けを行わないのはなぜですか? : 日本銀行 Bank of Japan

*3:ちょっと見つけられなかったのだけど、ゆる~く関連するものとして、にゅんさんによるフルワイラー他の翻訳記事:「MMTがいわゆるインフレ目標政策や中央銀行の独立を支持しない理由」by スコット・フルワイラー他  – 道草

*4:準備預金制度とは何ですか? 超過準備とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan

*5:ゼロ金利政策とは 景気・物価の押し上げ狙う: 日本経済新聞

*6:これって誰がどこで言っているんだろう…相手は日銀んとこの説明にある通り、国債市中銀行通して提供しないと、戦時のときのようなハイパーインフレが起こるんだぞとか言ってくる。ここがキモだと思っている

*7:War Bond Stamp Book from World War II | Museum of American Finance

*8:※ここらへんは次を見たほうが早い|MMTの「Taxdrivesmoney(租税が貨幣を駆動する... - Yahoo!知恵袋これじゃわからん!「税が貨幣を動かす」その1 | 不自由な思考をめぐってこれじゃわからん!「税が貨幣を動かす」その2 | 不自由な思考をめぐってこれじゃわからん!「税が貨幣を動かす」その3 | 不自由な思考をめぐって

*9:米国で話題の財政赤字容認論MMT、その根拠は「日本が成功例」!? | 金融市場異論百出 | ダイヤモンド・オンライン

*10:当座借越|税理士|資格の学校TAC

*11:米債務上限問題について考える | 三井住友DSアセットマネジメント

*12:機能的財政とは - コトバンク

*13:ラーナーとミンスキーを比較する Part 1 - 断章、特に経済的なテーマ

*14:未読だが、たぶんここらへん|Toward a New Instrumental Macroeconomics: Abba Lerner and Adolph Lowe on Economic Method, Theory, History, and Policy by Mathew Forstater :: SSRN