徒然MMT[1] - Yahoo!知恵袋のrickyさんのコメントをノート化してみる(試)
- 承前
- ノート
承前
mmtについて質問です。mmtではインフレになるまで国債を発行すると言っていますが、国の借金が大きくなりすぎるとその利息を払うためにさらなる国債を発行せざる… - Yahoo!知恵袋 https://t.co/tLOajfAKfm
— むらしん (@murashinn) 2021年12月3日
mmtについて質問です。 - mmtではインフレになるまで国債... - Yahoo!知恵袋
またrickyさんの素晴らしい!と思われるMMT解説がYahoo!知恵袋に投稿されている。 しかし、大枠は理解できたつもりでいるのだが、細かいところが理解できない。rickyさんは敢えて長文で記載しているものと思われるが、ここは自分がどこが理解できてどこが理解できていないのかを確認するためにノート化(=箇条書きにして再整理)してみたい。脚注は私が付記した部分になる。
ノート
国債に関するMMTの主張の基本
- 誤解されたMMT
- インフレになるまで国債を発行する
- MMTの主張
MMTにおける(真正)インフレの回避策
MMTにおける国債に対しての提言
MMTにおける金利政策に対する見方
- 教科書的主張:製造業が金利低下によって設備投資を増やし、金利上昇によって設備投資を減らす
- 実際にほぼ全く期待できないことが実証研究で(もう1970年代ぐらいには)はっきりしていた*6
- 現代の製造業では原価計算に基づく目標マークアップを実現できるように価格設定がなされる
- 現在のように年金など金利所得層が増えた状態では、金利引き上げの効果はむしろ年金受給層などの支出を増やす傾向にある
- そもそもMMTの枠組みからすれば、政府による金利支払いは民間の純所得を増やすはずであり、これは民間支出の増加につながるはず
- こうしたことを勘案したとき、MMTにとって金利政策というものが景気にどのような効果をもたらすのか不可知となる
MMTによるインフレ抑制のための一提案
そもそもMMTとは?
- MMTというのは、幅広い射程を持った「ものの見方」に関する議論であって、単に目先の経済政策をどうする、という話とはまたちょっと違う
- 例えば、"Taxes Drive Money"(税が貨幣を駆動する)について
- 債務の額面価値はそれが償還されるときにどのようなことを約束しているかによって定義されている
- 租税制度によってさまざまな経済主体が発行する債務の間に一種の階層秩序が構成され、それが安定していることによって経済的にも安定した取引が可能になる
日本におけるMMTに対する誤解(ここは別にどうでもいい)
国債制度を廃止した場合のベースマネー発行方法
- MMT派がよく言っているのは、政府預金口座に当座借越ファシリティーを設定すること
- 当座借越*10:MMTが言っているのはあくまでもオーバードラフト、つまり口座残高がマイナスになる、ということ
- 政府は中央銀行に政府預金口座を持っており、そこで資金管理している。
- 現在は、政府は支出に先立って必ず支出額以上の預金残高を確保していなければならない。だからもし資金が足りない場合には財務省が短期証券を発行して、政府預金口座に資金を入れてから支出することになる。そしてもし年間の収入総額が支出総額を上回るようだったら、短期証券ではなく国債に切り替えなければならない
- しかし政府預金口座がマイナスになってよいのであれば、支出に先立ち支出額以上の残高を確保しておく必要などないし、マイナスを繰り越して構わないとすれば(そして借越枠を設けないので良ければ)、国債も必要ない
- まあ借越枠は単年度の予算では必要になるかもしれないが、長期的に見れば、今のアメリカの債務上限法*11と一緒で、上へ上へと延びてゆくことになるだろう。政府に収入があったときには、この借越額のマイナス額が収入によって減少することになる
MMTにおけるベースマネーおよび租税に対する考え方
MMTにおけるベースマネーに対する考え
- MMTでは、先にベースマネーの発行額が決まるのではなく、政府の支出額が決まると、それに従いベースマネーが発行される、としている
- 政府は基本的には民間の必要性によって財政支出額を決めるべき
- 民間の必要性:基本的な公共施設、インフラ整備や教育・医療・環境保全、などといったもの
- ただしこうしたものを整備しようにも、一気にやろうとすれば国内で利用可能な経済的資源のキャパオーバーに繋がってしまう。キャパオーバーになれば、それ以上はいくらベースマネーを発行して実行しようとしたところで民間の資源需要との競合となり、インフレになるばかり
- これは「真正インフレ」と呼ばれる状況で、MMTにとっては絶対避けるべき状態。
- この意味で、MMTでは「インフレが政府支出の上限」とよく言う。
- よくある誤解:MMTは何もインフレになるまで支出をするべきだ、とか、政府は事前にどれだけ支出すればどれほどインフレになるかを把握できる
- ――そんなことは不可能。なぜなら、総需要を構成する支出は政府だけでなく、民間投資が大きな部分を占めているけれど、これは不安定で政府があらかじめ知ることなどできない
- それより政府が民間に合わせてちょうどインフレにならない(あるいはインフレ率2%でも一緒ですが)水準に総需要をコントロールしようとしても、そこには情報や決定、実行、支出についてのタイムラグが存在しており常にタイミングを外すことにならざるを得ず、それどころか、こうした政府支出に対する民間の予想を不安定にさせ、それ自体が民間投資をかく乱し経済を不安定化させる原因になってしまう
- よくある誤解:MMTは何もインフレになるまで支出をするべきだ、とか、政府は事前にどれだけ支出すればどれほどインフレになるかを把握できる
- だからあくまでも、インフラや教育、医療、環境保全など、民間の実物的必要性に応じて長期的・計画的に「目標を定めた」支出 measured and targeted spending をするべきであって、ベースマネーをいくら出すべきか、とかインフレをどうするか、といったものを基準にすべきではない
- ただしこうしたものを整備しようにも、一気にやろうとすれば国内で利用可能な経済的資源のキャパオーバーに繋がってしまう。キャパオーバーになれば、それ以上はいくらベースマネーを発行して実行しようとしたところで民間の資源需要との競合となり、インフレになるばかり
- 民間の必要性:基本的な公共施設、インフラ整備や教育・医療・環境保全、などといったもの
- 政府は基本的には民間の必要性によって財政支出額を決めるべき
もう一つの考え:JGP(就業保障プログラム)
- MMTの考えでは、貨幣経済と実態経済とは交換によって結びつく面より生産によって結びつく面の影響の方が大きい
- むしろ価格は、所定の貨幣賃率と海外からの輸入資源価格や現状の生産設備を前提として所定のマークアップ目標の下、原価計算を通じて決まる
- ここで決定的な役割を果たすのは貨幣賃率
- 個別企業水準で言えば、様々な生産要素がかかわっているが、マクロ経済全体で考えると、貨幣賃率が生産コストの最も重要な部分を占めている
- だからこの賃率を安定させることが生産コストを安定させる(製品価格の決定)うえでも、生産量を決定する(企業は所与の貨幣所得を前提に売り上げ見込みを立てる)うえでも最も重要な役割を果たす
- どうしたら貨幣賃率を安定させることができるのか
- 政府は、上記の通り、公共投資など自分の意思決定で金額を決定できる「裁量的支出」についてはある程度大きな規模で安定させ、景気循環などによって変動する「非裁量的支出」としてJGPを採用することで、景気循環と反対に財政を増減させる
MMTにおける租税に対する考え方
租税は、単に民間の資金を奪う、ということより、民間所得および民間純資産を減らす効果がある
これは国内資源が一定の時、民間の支出を減らし、それだけ政府の財政活動の余地を広げることに貢献する。上記の通り、総需要が過剰になり国内供給力を超えてしまえば真正インフレが発生する
これが政府支出の上限を成すわけだから、税金が大きければ、それだけ政府は財政支出を増やすことができる、とは言える
が、実際にインフレが発生したとき、増税によってインフレを回避できるか、あるいはできるとしてそうすることが得策なのか、というと、MMT派は慎重
というのは、例えば景気が過熱してインフレになったとき、一番苦しむのは誰かというと、景気過熱にもかかわらず最後まで職に就くことができない層、具体的にはきちんとした教育を受ける機会を得られなかったマイノリティのシングルマザー。増税などによって景気を冷ます政策が一番ダメージを与えあるのはこうした層だ、というのがMMT派の見立て
増税は、確かに景気を冷ます効果があるかもしれないが、他方で企業がマークアップを設定する際目標とするのはあくまでも税引後利潤であるから、法人税が引き上げられればかえって価格がさらに上昇する可能性もある
所得税が引き上げられれば、労組の賃上げ圧力がさらに強くなり、これもインフレにさらに拍車をかけかねない
金利の上昇も同じような効果を持つ。しかし上記のようなマイノリティー層はこうした回避策をとることができず、悪影響しか受けない
そもそも増税によって民間支出を減らそう、という試みを成功させるには、所得に対する消費支出の比率が高い中低所得層への課税を、上位層に比べて相対的に大きくすることが必要になるこれでは政府が政策を遂行する上で最も協力を必要とする中所得層の協力をなかなか得られなくなってしまう。これでは逆効果になってしまう可能性もある
MMT派では、どちらかというと増税という手段は、所得・資産格差を解消するため、あるいは社会的に望ましくない消費活動や投資・投機活動を抑制するために用いられるべきで、インフレ回避といったマクロ経済政策上、あまり好ましい手段ではない、と考える傾向がある
- 税率や税額の決定も、こうした社会政策上の観点から決められるべきで、政府の財源の必要性によって決めるべきではない、とされる
- これがMMT派の言う「機能的財政」という考え方
- これはもともとはA. ラーナーという昔の経済学者の用いた言葉*12で、財政の良しあしは、黒字か赤字か、債務がどれだけあるか、ではなく、その支出が経済全体に対して与える影響で判断されるべきだ、ということ
- もっともラーナーと異なりMMTの場合は、景気に対する効果というよりは、もっと社会的で具体的な話を強調する傾向がある
- 実際、レイによるなら、最初にフォーステーターが機能的財政の考え方をMMTに持ち込もうとしたときには結構抵抗もあった模様。レイ自身、ラーナーとミンスキーを比較したW.P.では、ラーナ―のことをあまりいい書き方をしていない*13
- ラーナーの機能的財政の考え方は、ファインチューニングによる景気安定化政策の考え方を経て、結局マネタリズムと同じ結論に行き着いてしまった。それじゃダメなんだ、という意見
- ラーナ―をMMTに持ち込んだフォーステーター自身も、ラーナ―とレーヴェ(レーヴェというのは、アドルノやホルクハイマーといった哲学者を推すフランクフルト学派系の経済学者として知られています)を比較したW.P.では、なんだかレーヴェの方を評価しているみたいな書き方になっている*14
- 実際、レイによるなら、最初にフォーステーターが機能的財政の考え方をMMTに持ち込もうとしたときには結構抵抗もあった模様。レイ自身、ラーナーとミンスキーを比較したW.P.では、ラーナ―のことをあまりいい書き方をしていない*13
まとめ
MMTは、機能的財政の考え方に従い、財政支出の規模や税率・税額についてはその社会経済的な必要に応じて行うべきであって、政府の財政が黒字かどうか、債務がいくらあるかにはこだわる必要はない、という立場
ついでに、裁量的支出についての補足と、MMTの"暗さ"について
— むらしん (@murashinn) 2021年12月4日
MMTやPKによれば、政府の裁量的な支出は後手に回りやすいし... - Yahoo!知恵袋
裁量的支出の補足
- MMTは政府の裁量的な支出に否定的なのではない
政府による裁量的支出政策の外観
- 政府の裁量的な支出政策(および連銀による「最後の貸し手」政策)と悪性のインフレの間の結びつきが顕著になったのは50年代後半から60年代
- 70年代にはいると今度はスダグフレーションになり、インフレと失業率の(上辺の)関係が断たれるようになる(「垂直のフィリップスカーブ」)。政府の支出(とりわけ軍事支出)が増えても、雇用も実質賃金も伸びない(それどころか悪化する)という現象はこのころには明確になる
- 60年代にはすでに景気回復から取り残された黒人層の問題など発生、それに対して「トリクルダウン」という言葉が使われるようになる(まず白人の中産階層が豊かになれば、その支出を通じて黒人低所得層も豊かになるので、まずは白人中産階層の所得を引き上げることが必要、という考え方)
- 70年代になると、所得が改善した層においてすら、貧窮感がかえって強まる、という「相対的剝奪」現象がみられるようになる。もうすでにこのころには名目的なGNPの伸び(「実質」GNPですら、生活の質、という面から言えば、名目的なものに過ぎない)がかならずしも一般国民の経済生活を豊かにするとは言えないことがはっきりしてくる
- それで70年代末から80年代初頭にかけて、徹底的な「改革」が行われるようになる。家父長的な管理体制で、皆を幸せにしようとするからみんなが不幸になるんだ、努力をするものが応分の利益を手にできるように世の中を改革するべきだ、という、いわゆる「中産階層の反乱」が起こった
MMTの”暗さ”について
- そういう構造に陥った原因というのは、そりゃ、資本制経済だから
- だからレイやティモワーニュは言う
- ――MMTに基づいた政策によって経済がうまくいくとしても、そんなものがうまく続くのはせいぜい10年そこいらで、その後何十年かかけて長い崩壊過程を経験することだろう
- ――それでもいいのだ。MMTの貢献は、この長い崩壊過程をよりましなものにすることだ
- MMC(マネー・マネージャー資本制経済、つまりサブプライムローン危機によって「終わりの始まり」を迎えた「自由主義」的傾向の強い資本制体制)の崩壊過程は、以前の「金融資本制」の崩壊過程より、その規模ははるかに大きかったのにかかわらず、社会的悪影響をはるかに小さいものにとどめることに成功している
- MMTに基づく経済体制の崩壊過程も、「管理資本制」の崩壊過程よりずっといいものにできるはずだ
- ごくわずかな期間のユーフォーリアのためにではなく、好不況を超えて、長期的により安定し、個人が自分と地域社会の発展を追求できる社会的を目指すべきだ
- 資本制経済という枠組みの中で、経済を安定させるということは、基本的には不可能だ(ただし多少マシになら出来る)、というのがMMTの認識
*1:1. 短期金融市場とは|「短期金融市場と円の国際化」関連資料|経団連|98/06/16
*2:日本銀行が国債の引受けを行わないのはなぜですか? : 日本銀行 Bank of Japan
*3:ちょっと見つけられなかったのだけど、ゆる~く関連するものとして、にゅんさんによるフルワイラー他の翻訳記事:「MMTがいわゆるインフレ目標政策や中央銀行の独立を支持しない理由」by スコット・フルワイラー他 – 道草
*4:準備預金制度とは何ですか? 超過準備とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan
*5:ゼロ金利政策とは 景気・物価の押し上げ狙う: 日本経済新聞
*6:これって誰がどこで言っているんだろう…相手は日銀んとこの説明にある通り、国債を市中銀行通して提供しないと、戦時のときのようなハイパーインフレが起こるんだぞとか言ってくる。ここがキモだと思っている
*7:War Bond Stamp Book from World War II | Museum of American Finance
*8:※ここらへんは次を見たほうが早い|MMTの「Taxdrivesmoney(租税が貨幣を駆動する... - Yahoo!知恵袋|これじゃわからん!「税が貨幣を動かす」その1 | 不自由な思考をめぐって|これじゃわからん!「税が貨幣を動かす」その2 | 不自由な思考をめぐって|これじゃわからん!「税が貨幣を動かす」その3 | 不自由な思考をめぐって
*9:米国で話題の財政赤字容認論MMT、その根拠は「日本が成功例」!? | 金融市場異論百出 | ダイヤモンド・オンライン
*11:米債務上限問題について考える | 三井住友DSアセットマネジメント
*13:ラーナーとミンスキーを比較する Part 1 - 断章、特に経済的なテーマ
*14:未読だが、たぶんここらへん|Toward a New Instrumental Macroeconomics: Abba Lerner and Adolph Lowe on Economic Method, Theory, History, and Policy by Mathew Forstater :: SSRN